
坂茂の「透明トイレ」が解いた、公共建築の数学的解法。
住宅/ビル/マンションのデザイン建築設計事務所をしている片岡直樹が向学のために名建築を訪ねるシリーズです。
坂茂先生が「THE TOKYO TOILET」プロジェクトで提示した答えは、単なる「奇抜なアイデア」ではありませんでした。
はるのおがわコミュニティパークトイレに現れたこの建築は、公共空間が抱える根源的な不安を解決する「プロブレム・ソルビング」の結晶です。
※本記事は「はるのおがわコミュニティパーク」を掲載。透明トイレは「代々木深町小公園」にもあり、別記事で紹介予定です。
新建築 2020年10月号に発表されています。
1.「透明」であることの論理的必然
公共のトイレ、特に公園のトイレには二つの大きな不安があります。
- 中がきれい(清潔)かどうか?
- 中に誰も隠れていないか(安全)?
坂茂先生はこの二つの課題に対し、「中に入る前に視覚で確認できる」という、透明性による解決策を提案しています。

背面から見る。通電フィルムを用いたガラスと、周囲の緑が溶け合う。
映っている信号機はガラスの反射です。
2.性別を問わない安心のデザイン
男子・女子・多目的。それぞれの入り口は、外からでも「誰もいない」ことが一目で分かります。この「情報の透明化」こそが、特に女性や子供にとっての大きな安心感に繋がっています。

男子トイレ入口正面:中に入る前に、清潔さと安全性を確認できる。

女子トイレ正面外観。
歩行者用信号機が写っていますが、これは手前から
正面ガラス→トイレ室内→背面ガラス→公園の樹木→横断歩道道路
の先にある信号機です。

多目的トイレの出入口。バリアフリーと透明性の共存。
外部仕上げ
屋根 シート防水(アーキヤマデ:リベットルーフCOOL)
外壁 ガラス:強化ガラス+カラーフィルム(中川ケミカル:イロミズ)+熱線遮光フィルム
サッシ:ステンレス鏡面 外構 砂利 インターロッキングブロック 内部仕上げ
3.内部体験:施錠によって変わる世界
内部に入り、鍵をかける。その瞬間、液体クリスタルが反応し、透明だったガラスが瞬時に「不透明」へと変わります。

施錠前の多目的トイレ内部。
外部の景色が完全に透けて見える開放感。
鏡面ガラスに反対側の外の景色が写り込んでいます。

男子トイレ内部。清潔に保たれたTOTO製の衛生機器が、ガラス越しに信頼を担保する。

施錠前の透明な内部。施錠すると不透明化したガラスが、外からの視線を遮断し、プライバシーを守る。
床 エポキシ樹脂系塗床(エスケー化研:アーキフロアEH)
壁 (同上) 天井 塩化ビニル樹脂シート(3M:ダイノックフィルムハイグロス)
4.建築としてのディテール
ステンレス鏡面仕上げのサッシや、エポキシ樹脂の床。
細部まで徹底された「清掃しやすさ」と「景観への配慮」がされているそうです。

男子トイレ側面のディテール。透明なガラスの奥のステンレス鏡面壁が周囲の風景を映し込こんでいます。

多目的トイレ側の側面。軽やかなファサードが公共トイレの重苦しさを払拭しています。
5.夜の「行灯」:公園を照らす道標
日没後、このトイレはもう一つの役割を果たします。
内部の照明がカラーフィルムを通し、暗い公園を「行灯」のように優しく照らし出します。

夕景。公園全体に安心感を与える照明装置としての建築。
通電不透明ガラスの実務と運用について
本計画で採用されている通電不透明ガラスは、通電のON/OFFによって透明と不透明を切り替える技術です。
片岡も、オフィスの面談室においてガラス壁としてこの技術を使用した経験があり、プライバシー確保と開放性を両立できる有効な手法だと感じています。
一方で、今回のように屋外で使用する場合は、室内とは異なる配慮が必要になります。
特に気温が低下する環境では、反応の遅れや表示の安定性に影響が出ることがあるとされており、本トイレでも季節によって透明の制御方法を調整するなど、運用面での工夫が行われているようです。
屋外での通電ガラスの採用には一定のハードルがありますが、適切な制御と運用を前提とすることで、公共空間における新しい可能性を示している事例といえるでしょう。
片岡は、この通電ガラスの不具合がニュースになるまで、気温低下による影響について知りませんでした。
実際の運用を通して見えてくる課題も含め、非常に学びの多い事例だと感じます。
オフィスの面談室など、通電不透明ガラスを活用したインテリア設計については、下記ページで実例をご紹介しています。
はるのおがわコミュニティパークトイレ
住所:東京都渋谷区代々木5-68-1
2025年6月の情報です。詳しくはTHE TOKYO TOILETのホームページをご覧ください。


















