壁の中で出火
2017/8/4東京都中央区の築地場外市場で起きた火災は、火元がラーメン店の厨房(ちゅうぼう)内だった可能性が高く、出火原因は、コンロから近くの壁に熱が伝わってこもり、突然発火する「伝導過熱 低温着火」によるものだったとみられること、また、厨房の木の壁には火が移らないようにステンレス製の板が張られていたようですが、木の壁は出火前から炭化し、燃えやすい状態になっていたことが報道されていました。
伝導過熱 低温着火火災は、壁体内、天井裏など目にとまりにくい場所で発生し、大惨事になる可能性があります。
低温着火火災とは
木材は、一般的に400℃くらい加熱しないと自ら発火しません。しかし、壁面等を熱に強い材料で覆っていても、長期間熱を受け続けると木材の水分などが蒸発し、木材に小さな穴が多数できます。
その穴に酸素が入り込み、酸化熱が蓄積されて、内部の木材が炭化状態になります。この状態になると低温(100℃程度)の状態でも木材に着火すると言われています。
ガスコンロ設置の改善策・注意点
コンロと壁の距離は15センチ離してください。
コンロ(火災予防法条例)から見ていきます。まずは伝導過熱を防ぐコンロと壁の距離です。
総務省令第二十四号により対象火気設備等の位置、構造及び管理並びに対象火気器具等の取扱いに関する条例の制定に関する基準を定める省令によって自治体により定められた火災予防条例に設置基準があります。これに各ガス会社が準じて設置基準どおりガスコンロを設置しています。
囲み枠部分は法令文です。読み飛ばして頂いても結構です。
東京都火災予防条例 第三条 炉の位置及び構造は、次に掲げる基準によらなければならない。
一 火災予防上安全な距離を保つことを要しない場合(不燃材料(建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第二条第九号に規定する不燃材料をいう。以下同じ。)のうち、コンクリート、れんが、鉄鋼、アルミニウム、モルタル、しつくいその他これらに類する不燃性の材料(以下「特定不燃材料」という。)で有効に仕上げをした建築物等(消防法施行令(昭和三十六年政令第三十七号。以下「令」という。)第五条第一項第一号に規定する建築物等をいう。以下同じ。)の部分の構造が準耐火構造(同法第二条第七号の二に規定する準耐火構造をいう。以下同じ。)であつて、間柱、下地その他主要な部分を特定不燃材料で造つたもので、かつ、東京都規則(以下「規則」という。)で定める設備の点検及び整備に必要な空間を確保した場合をいう。以下同じ。)を除き、炉から建築物等及び可燃性の物品までの火災予防上安全な距離として、当該炉の種類に応じ次に掲げる距離以上の距離を保つこと。
表は東京都火災予防法条例 別表第三 二 厨房設備一部抜粋 気体燃料
注 機器本体上方の測方又は後方の離隔距離を示す。
数値はセンチ単位です。
ビルトインガスコンロは、東京ガスの設置基準によれば上方80センチ
ドロップインガスコンロW750タイプは、上方80センチ側方7.5センチ防熱板を設置した場合0とあります。
耐火構造の壁以外はコンロと壁の距離は最低15センチ必要です。
ここで誤解しないで頂きたいのが、コンロとの距離とは、ゴトクの火の出る位置から壁ではなく、据え置き型のガスレンジ台の端から15センチです。
距離が保てない場合は、下地・仕上げともに特定不燃材料とするとあります。
木造では、下地の柱や耐力壁となる構造用合板が木ですので、実現困難です。
コンロと壁に距離が確保できない場合、建築工事なしでできることとして、70mm最低離せる場合、防熱板の設置により対応することができます。
木造建物の厨房・調理室では、コンロが壁から離れていないのは危険です。
壁が炭化しないためには、壁はどうすれば良かったのでしょうか。
今度は建物の壁など(建築基準法)から見ていきます。
建築基準法では、第128条の4により、住宅・店舗では基本的に調理室・厨房は、内装制限のかかる火気使用室です。
建築基準法施行令第129条1項2号により、
内装の制限を受ける調理室等は、その壁および天井の室内に面する部分の仕上げを準不燃材料以上としなければなりません。
準不燃材料は、通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後10分間は、燃焼しません。
第128条の4 制限を受けない特殊建築物等
4 法第35条の2の規定により政令で定める建築物の調理室、浴室その他の室でかまど、こんろその他火を使用する設備又は器具を設けたものは、階数が2以上の住宅(住宅で事務所、店舗その他これらに類する用途を兼ねるものを含む。以下この項において同じ。)の用途に供する建築物(主要構造部を耐火構造としたものを除く。)の最上階以外の階又は住宅の用途に供する建築物以外の建築物(主要構造部を耐火構造としたものを除く。)に存する調理室、浴室、乾燥室、ボイラー室、作業室その他の室でかまど、こんろ、ストーブ、炉、ボイラー、内燃機関その他火を使用する設備又は器具を設けたもの( において「内装の制限を受ける調理室等」という。)以外のものとする。
第129条
1. 前条第一項第一号に掲げる特殊建築物は、当該各用途に供する居室(法別表第一(い)欄(二)項に掲げる用途に供する特殊建築物が耐火建築物又は法第二条第九号の三 イに該当する準耐火建築物である場合にあつては、当該用途に供する特殊建築物の部分で床面積の合計百平方メートル(共同住宅の住戸にあつては、二百平方メートル)以内ごとに準耐火構造の床若しくは壁又は法第二条第九号の二 ロに規定する防火設備で区画されている部分の居室を除く。)の壁(床面からの高さが一・二メートル以下の部分を除く。第四項において同じ。)及び天井(天井のない場合においては、屋根。以下この条において同じ。)の室内に面する部分(回り縁、窓台その他これらに類する部分を除く。以下この条において同じ。)の仕上げを第一号に掲げる仕上げと、当該各用途に供する居室から地上に通ずる主たる廊下、階段その他の通路の壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを第二号に掲げる仕上げとしなければならない。
一 次のイ又はロに掲げる仕上げ
イ 難燃材料(三階以上の階に居室を有する建築物の当該各用途に供する居室の天井の室内に面する部分にあつては、準不燃材料)でしたもの
ロ イに掲げる仕上げに準ずるものとして国土交通大臣が定める方法により国土交通大臣が定める材料の組合せによつてしたもの
二 次のイ又はロに掲げる仕上げ
イ 準不燃材料でしたもの
ロ イに掲げる仕上げに準ずるものとして国土交通大臣が定める方法により国土交通大臣が定める材料の組合せによつてしたもの
ちなみに、少し話がそれますが、住宅の場合、内装制限の火気使用室には、緩和規定があります。
平21国交告225号戸建て住宅に限り、コンロや壁付け暖炉などの火気使用室は、火気使用室周辺の内装を強化することで、それ以外の部分に木材等の使用が許容されています。
また、内装制限における柱・はり等の取扱いについて、内装制限が適用される壁又は天井の部分に柱・はり等の木部が露出する場合で、柱・はり等の室内に面する部分の表面積が各面(各壁面及び天井面)の面積の10分の1を超える場合は、当該柱又ははり部分も壁又は天井の一部とみなして内装制限の対象として取り扱うとあります。なお、準不燃材料同等内装告示の適用に当たっては、柱・はり等の木部は見付面積に関係なく内装制限の対象になるので注意が必要です。これは、木造で、柱・はり等の木部が見付面積の1/10以下であれば、木部が露出してもコンロとの距離を離さなくて良いということではありません。
構造別〇×事例 木造編
火災予防条例の必要な離隔距離を確保して〇、建築基準法の内装制限として、ステンレスやタイルなど準不燃以上仕上げで〇
よってOKになります。
木造で伝導過熱・低温着火火災が起こる悪い事例です。 火災予防条例のコンロとの距離が不足して×、建築基準法の内装制限は、ステンレス・タイル仕上げが準不燃以上なので〇 両方の法令を満たせていない危険な事例です。
構造別〇×事例 鉄骨造編
鉄骨造で柱梁に取りつく壁は、軽量鉄骨LGS下地が多用されます。火災予防条例は、必要な離隔距離を確保しているので〇。建築基準法の内装制限は、仕上げがステンレスやタイルまたはプラスターボード9.5mmに塗装で準不燃以上なので〇。よって安全OKとなります。
火災予防条例は、コンロと壁の距離が取れない場合は、下地をすべて不燃とすることが求められます。準不燃の下地では×となります。建築基準法の内装制限は、ステンレスやタイル仕上げとすることで〇です。よって違法危険NGとなります。ちなみに、12.5mmの不燃プラスターボードの壁下地であっても耐火壁でなければ合法安全とはなりません。