— 石油掘削リグ転用による海上プラットフォームの提案 —

見出し一覧
- 洋上小型原子力発電所(SMR)施設の建築的構想
- 計画地の特性と立地条件:南鳥島近海・平頂海山の活用
- 基本構成:石油掘削リグ(ジャケット式)の転用シナリオ
- 計画の着想:社会的議論を建築的視点から読み解く
- 平頂海山への定置:安定性を確保する構造計画
- 送電と冷却:インフラ配置上の前提条件(仮定)
- 複合機能をもつ海上都市:発電・研究・エンターテインメントの統合
- 安全性と社会的受容性:物理的距離によるリスク遮断
- 運営モデルの思考実験:分散型組織(DAO)による管理
- 建築的意義:過酷な海洋環境に応答する「受動的耐風設計」
- 設計解説:各棟の空間構成と構造合理性(SMR棟・ホテル棟・カジノ棟)
- 模型・CGギャラリー
- まとめ
- FAQ(よくある質問):本スタディの目的と範囲について
1.洋上小型原子力発電所(SMR)施設の建築的構想
AI・データセンターの急速な普及により、電力需要は今後も増加を続けると予測されている。一方で、日本国内における原子力発電所の新設は、社会的・心理的要因により極めて困難な状況にある。
本ページでは、陸域とは異なる可能性をもつ「公海」という立地条件に着目し、洋上に小型原子炉(SMR)を搭載した発電施設を建築的観点から構成する場合の空間モデルを提示する。
対象とするのは、南鳥島近海に位置する平頂海山(Guyot)であり、水深約50mの平坦地形を利用して複数のプラットフォームを定置することで、新しいエネルギー拠点のモデルを構築することを試みる。
本構想は、エネルギー供給施設としての機能に加え、研究・情報処理・滞在機能を併せ持つ複合的な海洋建築として位置づけられる。
2. 計画地の特性と立地条件:南鳥島近海・平頂海山の活用

計画地は、日本国最東端の南鳥島近海に位置する平頂海山である。平頂海山(ギヨー)は、かつて火山島として形成された後、波浪侵食とプレート運動により沈降した地形であり、山頂部が広く平坦である点に特徴がある。

本構想では、水深約50mの平坦面を有する地点を対象とする。

この地形条件により、大水深の浮体構造物と比較して、着底型プラットフォームの安定した設置が可能となる。
3. 基本構成:石油掘削リグ(ジャケット式)の転用シナリオ
基盤構造として、既存の石油掘削リグを転用することを想定する。
役目を終えた掘削施設を再利用することで、新規建造に比べてコストおよび建設期間の縮減が可能となる。
発電装置には小型モジュール炉(SMR)を採用し、複数基を分散配置することで、従来型大型原子力発電所に相当する出力規模を確保する計画とする。
※本スタディでは、原子炉の詳細構造や発電技術そのものの設計検討は行っておらず、建築的配置と空間構成の検討に対象を限定する。

全体模型 3種類の中古ジャケット式石油掘削リグ(赤白塗装の鉄骨部分)を転用したと想定している。
左からクレーン棟 ホテル棟 小型原子力発電所SMR1号棟 小型原子力発電所SMR2号棟
新設しているのは、地中に打ち込むコンクリート杭+構台+建築物
4. 計画の着想:社会的議論を建築的視点から読み解く
本計画は、実業家・堀江貴文氏がYouTube番組内で言及した「公海上で原子力発電を行う構想」という議論に触発されたものである。
近年、小型モジュール炉(SMR)をはじめとする新しい原子力技術が国際的に議論される中で、発電施設の立地や社会的受容性についても新たな視点が求められている。
本スタディは、そうした社会的議論の一例として提示されたアイデアを、建築的視点から読み替え、施設構成や空間構成の可能性を検討するための思考実験的スタディとして制作したものである。
なお、本計画は特定の事業構想や政策提案を支持・推進するものではなく、エネルギー施設を建築として構成する場合の空間的可能性を探ることを目的としている。
着想の一例として参照した議論は、以下の動画において紹介されている。
(参考資料としての位置づけであり、本構想の内容を直接的に示すものではない。)
【ホリエモン】ホリエモンの原子力発電計画の全貌とは?
(公海上での原子力利用に関する議論を紹介する動画)
5. 平頂海山への定置:安定性を確保する構造計画
平頂海山の平坦な地形を利用し、リグの脚部を直接着底させる構造、または重力式基礎を設ける方式を検討する。
これにより、波浪や地震に対する応答を低減し、安定した設置が可能となる。

アミューズメント棟 新設部はコンクリート杭のみのジャケット式リグ
ジャケット式とは、杭にジャケットを羽織るように見えるが、実際は中まで貫通して一体化している構造を意味している。
6. 送電と冷却:インフラ配置上の前提条件(仮定)
発電された電力は、超電導海底ケーブルによって本州方面へ送電される構想である。
冷却に液体窒素等を用いることで送電損失を抑制し、長距離送電における効率性を確保する。
冷却水としては深層海水を活用し、周辺海域への熱影響を低減する計画とする。
※送電方式や冷却方式については、工学的検証を行うものではなく、配置計画上の前提条件として仮定したものである。
7. 複合機能をもつ海上都市:発電・研究・エンターテインメントの統合
本構想では、発電機能に加え、以下の機能を統合する。
・先端研究施設
・海中データセンター
・滞在型宿泊施設
・カジノ・観光・レクリエーション機能
これにより、単一機能の発電施設ではなく、複合的な海洋都市としての空間構成を形成する。
8. 安全性と社会的受容性:物理的距離によるリスク遮断
陸域から約1,800km離れた立地は、万一の事故時においても居住地への直接的影響を物理的距離によって遮断できる条件となる。
本構想では、こうした立地条件が社会的受容性に与える影響を空間的観点から検討対象とした。
なお、放射線防護や原子炉安全設計については、本スタディの検討範囲外であり、専門的検討を代替するものではない。

9. 運営モデルの思考実験:分散型組織(DAO)による管理
本拠点の運営形態として、分散型組織(DAO)による運営モデルを想定する。
これは、公海上という国家管轄の枠組みが曖昧な領域において、仮想的に想定した管理形態であり、法制度上の実現性を示すものではない。
本スタディでは、こうした運営モデルが建築空間の構成に与える影響を思考実験的に扱っている。
10. 建築的意義:過酷な海洋環境に応答する「受動的耐風設計」
本構想は、原子力発電所を単なるインフラ施設としてではなく、「建築」として構成する点に意義がある。
特にファサードの設計においては、過酷な海洋環境における卓越風を考慮し、暴風板としての機能を持たせた外壁デザインを採用している。卓越風が吹く西側に向けてメインルーバーを配置することで、気候風土の要求を合理的な建築形態へと昇華させた。
このように、構造計画、空間構成、環境配慮、景観形成を統合的に扱うことで、エネルギー施設の新たな建築類型を提示する試みである。
11.設計解説:各棟の空間構成と構造合理性

小型原子力発電所SMR1号棟
閉鎖性の高い発電機械室に対し、外部に突出させた事務機能を分節配置している。
この突出部は構台面から浮かせることで接地面積を抑え、限られた構台スペースを有効に活用する計画としている。

小型原子力発電所 SMR 1号棟
西側デッキレベル
建物前面に独立配置されたL60m×H50mの格子フレーム。
卓越風に対し人工的な「粗度」を与えることで気流を撹乱し、設計風速を抑制。
風圧力の低減により建物本体の構造合理性を高める、粗度区分制御に基づいた受動的耐風設計である。

小型原子力発電所SMR2号棟
【設計解説:海洋環境における風優越と構造合理性】
本プロジェクトが位置する「水深50mの海洋」において、受圧面3,000m2に及ぶ巨大な建築物を構築する際、構造設計の主役(支配的な荷重)は地震力 Ci から風圧力 W へとシフト、あるいは両者が拮抗する「風優越」の領域へと入る。
一般に、陸上のRC造など重量のある建物では地震力が支配的となるが、遮蔽物のない洋上に建つ「軽量かつ高剛性なSMR施設」では、極めて高い設計用風速 V0 の設定が不可欠となる。
この巨大な風荷重は、単なる水平力に留まらず、下部ジャケット構造および基礎杭に対して甚大な「転倒モーメント」を引き起こす主因となる。
そこで本設計では、外骨格の格子フレームによって周辺の粗度区分を人工的に操作し、風速を「粗す」手法を採用した。
設計風圧力を数パーセント低減させることは、杭基礎やジャケット部材の鋼材重量の劇的な軽量化、すなわち構造の最適化に直結する。
動的な制振装置に依存せず、静的な格子部材のみでエネルギーを減衰させるこの「受動的制御(パッシブ・コントロール)」の思想は、原子力施設に求められる極めて高い安全基準と不確定要素の排除において、最も信頼に足る構造合理性の解である。

小型原子力発電所SMR2号棟
貴重な構台面積を最大限確保するため、鉛直荷重が少ない小型モジュール炉と発電施設以外の周辺諸室がオーバーハングしている。

カジノ棟
エネルギー自立型洋上都市に組み込まれる、象徴的なエンターテインメント施設の提案。
陸域から隔離された立地を活かし、ヘリコプターや専用船による来訪を前提とした完全予約制の運用を想定する。
入場は事前審査により制限され、滞在中の行動や利用履歴は一元管理されることで、利用者の選別や過度な利用の抑制を図る。
また、周辺に居住地を持たない環境により、騒音や景観、治安への影響が陸上に波及しにくい構成としている。

カジノ棟
5階建て、階高約10mとし、上層のホワイエから海を望む空間構成としている。外装は三方および屋根面をLow-E複層ガラスのカーテンウォールとし、眺望を確保しつつ日射負荷を低減する。
写真背面に立ち上がる外部鉄骨フレーム(高さ約56m・幅約70m)は、約10mピッチの鋼製ウェブ柱(t=200mm・D=2.0m)と、約5mピッチの鋼製ウェブ梁(t=200mm・D=1.5m)で構成され、西側の卓越風に対するルーバー状の暴風スクリーンとして機能する。
さらに、約5.5mピッチで配置されたアウトフレーム梁が風荷重を分散し、ガラス面に作用する風圧を低減することで、外装と構造を一体化した耐風環境制御を実現している。

アミューズメント棟(北西方向)
過酷な海上環境の中において、植物や庭園を介して自然を感じられる滞在空間を計画している。
全面ガラスに囲われた全天候型の空調空間とし、オーシャンビューと一体となった温室的な内部環境の中で、散策や滞在が可能な構成とした。
北側妻面は耐風圧性能を考慮してガラスを小割とし、サッシにリブ状の部材を設けることで風を分散させ、風速の低減を図っている。
また、西側外壁には卓越風に対する大型の暴風スクリーンを設け、外装と一体的に風荷重を制御する計画としている。
海上特有の強風環境に応答しつつ、内部に穏やかな自然環境を創出する建築としている。

カジノ棟
構台面からの南側アングル
屋根を含む外周に連続する外骨格フレームは、鉄骨によるラダー状のウェブ構造梁で構成される。
これは主要構造として機能するだけでなく、表面気流を分散・減衰させることで建物に作用する風速を抑制する「空力リブ」としての役割を兼ね備えている。

居住棟
核施設で働く人の居住施設
ジャイアントフレーム
各スパンに外骨格となる鉄骨ウェブを1m外壁から突き出すように設けて柱としている。
このジャイアントフレームは、暴風からガラスサッシ面に吹き付ける風を祖して風速を弱めて、ガラス耐風圧を軽減して大きなガラス面が成立しやすくする効果を狙っている。

石油掘削リグを転用していることから、建築物の自重限界は石油掘削リグとして利用されていた上部建築物と同荷重以下でなければならない。
その場合、構台面積いっぱいに高層の建築物を建設することは不可能となり。構台部に空地が生まれるか低層の建築物しか載せられない。
1ユニット当たりの最大積載建築物を居住棟は高層に大スパンが必要な集会施設を低層に配置して全体の荷重バランスをとる計画とした。
居住棟はオーシャンビューを最大限確保して宿泊者の快適性を演出している。
宿泊者がユニット増設に伴い増えた場合に備えて、あらかじめ半分だけガラスカーテンウォール外壁のある建物として右半分(模型では格子ワッフル状に見えるグレーの部分)は将来増設に備えて躯体だけ先行して作成している。
これは将来増築でも石油掘削リグが支持できる荷重限界が決まっているので先行して建設しておく想定を表現している。

ホテル棟
リグレベル(西側)からのパース
カジノ・アミューズメント施設に隣接する、全高85m(17階建て/階高5m)の滞在型宿泊施設。
30m角の平面構成に対し、卓越風に面するファサードには3mピッチの縦リブおよび5mピッチの無目(横リブ)を配した「アルミ中空暴風格子」を実装。
これにより建物表面の粗度を制御し、高層化に伴う風圧力の増大を抑制している。

クレーン棟(左)とホテル棟(右)
海洋プラットフォーム1ユニットの西側全景
海洋プラットフォームへのアクセスを担う、クレーン棟(左)とホテル棟(右)。
水深50mのジャケット構造上に、貨客船からの接岸・荷役を一手に担う「クレーン棟」を独立配置。
その右隣には、全高85mの「ホテル棟」がそびえ、宿泊機能を提供している。
12. 模型・CGギャラリー
以下に、本構想に基づいて制作した模型写真およびCGパースを掲載する。
建築スケールおよび空間構成の検討を目的としたものである。

手前左からカジノ棟、アミューズメント棟、クレーン棟
画像点数が多いため、ギャラリーページとして分割掲載している。
・ギャラリー①(1〜30枚)
・ギャラリー②(31〜60枚)
・ギャラリー③(61〜90枚)
13. まとめ
本構想は、石油掘削リグの転用と平頂海山という地形条件を組み合わせることで、定置型洋上SMRプラットフォームという新たな建築類型を提示するものである。
本ページでは、公海上に小型原子炉(SMR)を搭載した発電施設を建築的に構成する場合の空間モデルを示した。
エネルギー供給、研究、情報処理、滞在機能を統合した複合型プラットフォームとして構成することで、新たな海洋空間利用の可能性を提示している。

左:アミューズメント棟 中:ホテル棟 右:クレーン棟 ホテル棟奥に居住棟
注意(重要)
本ページは、建築的観点から構想されたスタディモデルを紹介するものであり、実在の事業計画、建設計画、政策提案、投資勧誘等を目的としたものではありません。
原子炉技術、安全設計、法制度、国際条約等についての専門的検討は行っておらず、本構想はそれらを代替するものではありません。
地形条件を活用し、エネルギー供給、研究、情報処理、滞在機能を統合した複合型プラットフォームとして構成することで、新たな海洋空間利用の可能性を提示している。

模型の構台面は見おろしでリグのジャケット架構が見えるように透明のアクリル板で製作している。
14.FAQ(よくある質問):本スタディの目的と範囲について
Q1. この洋上小型原子炉(SMR)発電施設は実際に建設される計画ですか?
いいえ、本スタディは実際の建設や事業化を目的とした計画ではありません。
将来のエネルギー供給のあり方を建築的視点から検討した概念的な構想モデルであり、技術的・法的な実現性を前提としたプロジェクトではありません。
Q2. なぜ洋上に小型原子炉(SMR)を配置する構想としたのですか?
陸上での原子力施設は、立地制約や社会的合意形成が大きな課題となります。
本スタディでは、公海上や平頂海山といった海洋空間を利用する可能性に着目し、建築的・空間的な配置のあり方を検討対象としました。
これはエネルギー問題を「建築の構成問題」として再解釈する試みでもあります。
Q3. 安全性や放射線リスクについては検討されていますか?
本スタディは建築的構成の検討を主目的とするものであり、原子炉工学や放射線防護の専門設計を行ったものではありません。
安全性や運用については、実際には原子力工学・法制度・国際条約など多分野の検討が必要であり、本構想はそれらを代替するものではありません。
Q4. この構想はどのような分野の研究に位置づけられますか?
本構想は以下の分野の交差点に位置します。
・建築設計
・海洋建築・海洋構造物
・エネルギーインフラの空間構成
・未来都市・インフラ建築のビジョン研究
つまり、工学的設計ではなく「建築的思考によるエネルギー施設の再構成」を目的としたスタディです。
Q5. 図面やCGは実際の設計図として利用できますか?
いいえ、掲載している模型写真やCGパースは、空間構成や建築イメージを示すためのビジュアルスタディです。
構造計算・設備設計・施工図などを含む実施設計図ではありません。












