
東京都江東区潮見に完成した、中小企業様の自社ビル(事務所+1階倉庫)の設計事例です。
計画地は埋立地であり、支持地盤が非常に深く(GL-43m)、杭工事のコスト増大が事業計画の大きな壁となっていました。
私たちは、建物の自重を極限まで軽くして基礎への負担を減らす「引き算の設計」を採用。無駄なコンクリートを削ぎ落とし、機能美と大幅なコストダウンを両立させたプロセスをご紹介します。
型枠の転用とサッシの統一がもたらす、合理的なコストコントロール

1階エントランスと上階の窓の幅を緻密に揃えることで、コンクリート打設時の型枠の転用(使い回し)を容易にしています。
現場での施工手間を減らす工夫の積み重ねが、品質を維持したまま全体の建築費を最適化する鍵となります。
企業の顔となる、重厚かつ端正なエントランスの構え

建物の第一印象を決めるエントランス回りは、コンクリートの力強さをそのまま活かした端正なデザインとしています。
過度な装飾を排することで、訪れる人に企業の誠実さと揺るぎない安定感を静かに伝えます。
300mmの壁厚がもたらす、安心感と彫りの深いファサード

面で建物を支える壁式構造ならではの、厚さ300mmの重厚なコンクリート壁。
この厚みが外部の騒音を遮断して内部環境を守るとともに、窓辺に深い陰影を生み出し、外観に豊かな表情と彫りの深さを与えています。
構造体の理(ことわり)が描く、美しきディテール

北側外壁は高度斜線制限をクリアするための斜壁デザイン。
屋上防水も、斜壁防水も、アルミ笠木の無い躯体防水を用いて、マッシブなコンクリート打放しで統一し、室外機排風用の手摺も外壁面とフラットに納めるなど、企業ブランディングに寄与する美しい外観です。
無機質な空間に温もりを添える、実務に即した素材選び

1階の倉庫スペースです。
壁式構造ならではの無機質で堅牢なコンクリートとグレーのタイヤ痕耐性のある塗装床に対し、大工仕事で強固に造作された木製の作業棚が、視覚的な温かみとコントラストをもたらす機能的な実務空間です。
日々のハードな業務に耐えうるようコンクリート現し仕上げとし、内装コストを削減しています。
借景を取り込み、生産性を高める開放的なワークスペース

2階の執務空間からは、道向かいにある公園の豊かな樹木を「借景」として室内に取り込んでいます。
建物の自重を減らすため(コストダウン)に設けられた大きな窓が、結果として働く人々に安らぎを与え、クリエイティブな思考を刺激する環境を創出しています。
階高を抑えつつ、最大限の空間容積を確保する断面計画

3階事務室南側への眺め
3階南側のFIX窓がある風景です。当設計ではOAフロアを無くすことで、フロア材の費用だけでなく各階の階高を約15cmずつ削減しています。建物全体の躯体量と仕上げ面積を減らすことで、事業計画に大きく貢献するコストダウンを実現しました。
居住性と意匠性を両立させる、見えない断熱の工夫

4階会議室。
豊かな自然光が入る最上階の会議室です。
内部の階段室区画には、コンクリート打放しの意匠性を保ちつつ、外気に面する居室の壁面はすべて断熱材で包み、快適な居住性を確保しています。
長く愛される建築とするための、見えない部分への配慮です。
構造がそのまま意匠となる、静謐な階段室

堅牢なコンクリート壁式構造の力強さをそのまま活かした、打放し仕上げの階段室です。
一切の装飾を削ぎ落としたミニマルな空間が、光と影のコントラストを美しく浮かび上がらせ、企業の本質的な強さを体現します。
都市の緑と共鳴する、静寂を纏うコンクリート

隣接する公園の豊かな緑と、無機質でシャープなコンクリート建築との美しいコントラスト。
借景として自然を取り込みつつ、街並みにおいて企業のアイデンティティとなる確かな存在感を放ちます。
街の風景に溶け込み、価値を高める夜のシルエット

夕闇が迫ると、街並みの中での佇まいがより鮮明になります。
過度な主張をせず、しかし確かな存在感を放つコンクリートのシルエット。
企業の拠点が、街の風景の一部としていかに美しく調和しているかが分かります。
コンクリート打放しと大開口が調和する東南側外観の夕景

東南側からの外観夕景です。
シャープなコンクリートの躯体と、あたたかな照明が灯る大きな窓のコントラストが印象的。
無駄を徹底して省いた合理的な設計方針が、洗練されたインダストリアルなオフィスデザインを生み出しています。
夜の街を照らし、企業の透明性を伝える灯り

日が落ちると、軽量化のために設けられた大きな窓が、街を照らすランタンのように変貌します。
規則正しく並んだ窓の明かりは、内部の活気を街に伝え、企業の透明性と社会的な信頼感を静かに、そして力強く発信し続けます。
Architect’s Voice:素材の声を聴き、必然を建てる

「コンクリートとの対話 ―壁式構造―」 作:片岡直樹
私はコンクリートに話しかけた。 「なにになりたいですか?」
コンクリートは静かに答えた。 「壁になりたい。」
壁は語らない。ただ、力と時間を受けとめる。 その沈黙の奥に、確かな意志がある。
コンクリートよ。 お前が壁になりたいと言うなら、私はその声を聴こう。 そして、その声のかたちを、建築という詩にしよう。
力の流れが止まるところ、そこに秩序が生まれる。 秩序の近くに、美が宿る。
「構造の美は、力学的合理の近傍にある(坪井善勝)」 その言葉を胸に、私は今日も素材の声を聴く。
建物概要
・用途:事務所+倉庫(1階)
・構造:鉄筋コンクリート壁式構造
・階数:地上4階建て
・所在地:東京都江東区潮見1丁目
・敷地条件:埋立地で支持地盤はGL-43m、杭が非常に長い
・設計方針:建物自重を軽くして杭負担を減らし、無駄なコンクリートを打たずコストダウン
・特徴:不要なコンクリート部分を大きな窓に置き換え、軽量化と採光・公園の眺めが得られる窓を両立
・屋上防水・斜壁防水:躯体防水
・換気空調設備:ロスナイ+エアコン